"10"(VT-25) SINGLE AMP  808 SINGLE AMP


すでに絶版のようで市場で10,000円以上の著書

      SYLVANIA "10"(VT-25)



約20年ほど前になりますが、アマチュア真空管アンプ自作派にとってエポックメイキングな回路が発表されました。それは故宍戸公一氏の開発による「送信管によるインターステージ・トランス反転結合シングル・アンプ」です。丈夫なことで知られ、しかも殆どがフィラメントの発光がきれいな管(トリタン球)である送信管は、真空管時代にラヂオ放送等に使われた業務用の真空管です。この管を低周波増幅であるオーディオに普通に使うと、高音が輝き過ぎになりやすいそうです。しかし業務用で出来の良い管が埋もれてしまっているのに気付いた著者は、これをトランス結合で使おうと工夫し始めます。
そして、その実験の結果、普通の真空管と異なり、相当にグリッド電流を流して使うと良い音が出るし、出力も取れることに注目されたようです。そしてその結合トランスの結線を正負逆転させることによって、前段のプレート電流とグリッド電流を帳消しにしています。この工夫によって、大きなグリッド電流によってトランスがヘタルのが防げるという発見が、特許になっています。このように、充分にグリッド電流を流せるようにした回路でのシングル動作では、送信管が従来では考えにくいほどにズ太い音を出し、また高音の過剰な輝きが抑えられることにもなりました。
多くの方の追試によって有効性を確認されたこの回路は、「宍戸式」と呼ばれて、アマチュアもよく採用する回路となりました。
おかげで、それまで非常に安かった送信管が高値を付けることになったということはあったものの、使われずに埃をかぶって埋もれていた送信管が、脚光を浴びるようになったのは、宍戸氏の功績です。
最初に私が製作したイントラ反転アンプは、宍戸氏作製による801Aシングル・アンプです。801Aは"10"(軍用名VT-25)とほぼ同規格ですので、手元にあったSYLVANIA製の"10"で製作しました。音質は古臭い送信管から発せられる音とは思えぬ明快で、抜けのよさが体感できる素晴らしいものです。また、フィラメントのトリタン特有の明るさが目を見張ります。

    GENERAL ELECTRIC 808


その後、イントラ反転アンプ最高峰と言える808シングル・アンプを製作しました。このアンプはすべてのトランスは特注で、パーツの選択にも大変な苦労をしました。さらに、総重量が30kg以上で持ち運ぶのはほぼ不可能な状態となりました。
その出来栄えは、見事なもので自作アンプの中でも最も自信の持てる音質のアンプとなりました。
しかし、このアンプは手元にはありません。次回作の資金調達のために職場の大先輩にお譲りすることなりました。今、このアンプを再製作するのはほぼ不可能な気がします。