γy-50 SINGE AMP

1976年9月6日、ソ連防空軍所属のMiG-25戦闘機数機が、ソ連(現在はロシア)極東のウラジオストク近くにあるチェグエフカ空軍基地から訓練目的で離陸。そのうちのヴィクトル・ベレンコ空軍中尉が操縦する1機が演習空域に向かう途中で突如コースを外れた。
航空自衛隊は地上のレーダーと空中のF-4EJの双方で日本へ向かってくるMiG-25を捜索した。しかし、レーダーサイトのレーダーはMiG-25が低空飛行に移ると探知することができず、MiG-25は自衛隊から発見されないまま北海道の函館空港に接近、市街上空を3度旋回したあと午後1時50分頃に滑走路に強行着陸した。
耐熱用のチタニウム合金製と考えられていた機体が、実はステンレス鋼板にすぎなかったこと、真空管などを多用した電子機器が当時の水準としては著しく時代遅れなことに驚愕し、対ソ連軍事戦略にも大きな影響を及ぼした。しかし「真空管を使うのは時代遅れ」との説には異論もある。

電子機器はハイテクを駆使していると見られていたが、実際にはオーソドックスな真空管が多く使われており、先進性より信頼性を重視したものとなっていた。

方式は旧式であったが、レーダーの出力は600kwと極めて大きいものとなり、相手方の妨害電波に打ち勝って有効であったと伝えられている。他にも、半導体回路を使用すると核爆発の際に発生する電磁パルスで回路が焼損するおそれがあるため使用しなかったとの説もある。


TELEFUNKEN LS50UHFパルス増幅5極管

       γy(ゲーウー)-50



今回、紹介するのは、ロシア製の軍用送信管を使ったアンプです。γy-50(ゲーウー)という名称で、戦車、潜水艦のレーダー画像表示装置の掃引回路の出力管に使用されていたようです。この真空管がMiG-25に使用されていたかは定かではありません。時代が違いすぎます。・・そうでもないか。(今は知るよしもありません。)
津田清一氏の著者の「幻のレーダー・ウルツブルグ」に大戦中の真空管が紹介されています。ウルツブルグ・レダー(Wurzburg FuGM 39/62)は、ドイツ空軍の要請でテレフンケン社が開発を担当し昭和13年に兵器原型を完成させましたが、戦場の過酷な要求を入れて逐次改良設計を行い光学兵器の追従を許さぬ高性能になったのは、昭和15年の夏でした。 ウルツブルグ FuGM 39/62は、短距離地上レーダー(RADAR;Radio Detection And Ranging)で、周波数は560MHzを使用した装置で計測距離は170km、測定範囲精度は100mおよび測定角度精度は0.2度と言われています。
TELEFUNKEN  LD2UHF発振増幅3極管、TELEFUNKEN  LD5 UHF電力増幅3極管、TELEFUNKEN LS50UHFパルス増幅5極管等の写真が掲載されていて、γy-50は形状、性能ともにTELEFUNKEN LS50に類似しています。(名称も)ソケットはロシア製の特殊8ピンで、カゴ型金属製アダプターと一体となっています。上部にはアルミカバーがあり引き抜きつまみが付属しています。このような堅牢な作りですので、過酷な環境下でも性能を発揮したものと思われます。
回路は全段直結ダイナミックカップルド・アンプで、G1・G2に同時に信号を入力する特殊3結方式です。初段は6SJ7の高信頼管5693、ドライバー管は12A6、共にメタル管です。これらはJAN規格(Join Army and Navy)で、米軍用のものです。ロシア製、アメリカ製の真空管、日本製のトランス、その他フランス製のコンデンサ等、音楽を奏でるアンプに使う平和利用です。
音質は音離れが良く、もたつきは全くありません。シングルでありながら、約10Wの出力が低重心の低域を発します。